会議室で「何か新しい企画を出して」と言われて、頭の中が真っ白になった経験はないでしょうか。商品開発の担当者でも、マーケティング担当者でも、あるいは個人でブログやSNSの発信を続けている人でも、「もうネタが尽きた」「同じような案しか出てこない」という壁にぶつかることは珍しくありません。
こういうとき、ゼロから発想しようとするとかえって苦しくなります。実は、まったく新しいものを思いつく必要はなく、「今あるものをどう見方を変えるか」という視点さえ持てば、アイデアは自然と広がっていきます。その視点の作り方を7つの型にまとめたのが、今回紹介する「SCAMPER(スキャンパー)法」です。
この記事では、SCAMPER法の成り立ちから7つの視点の意味、マクドナルド・スターバックス・アディダスといった身近な企業の実例、さらに実践する際のコツや、よくある疑問まで、できるだけ具体的に、かつ深掘りして解説していきます。
SCAMPER法とは何か

誕生の背景
SCAMPER法は、1971年にアメリカの教育者ボブ・エバール氏が著書『SCAMPER: Games for Imagination Development』の中で紹介した発想法です。もともとは、子どもたちの想像力をのびのびと育てるための教育ツールとして考案されました。
エバール氏がゼロから作り上げたわけではなく、ベースになっているのは、ブレインストーミングという手法で知られる広告業界の人物、アレックス・オズボーン氏がまとめた「発想を広げるためのチェックリスト」です。オズボーン氏の考え方を、子どもでも扱いやすいシンプルな型に整理し直したのが、SCAMPER法だと言われています。
その後、このフレームワークは教育の現場だけにとどまらず、商品開発、マーケティング、業務改善、さらには医療現場のワークフロー見直しなど、非常に幅広い分野で使われるようになりました。理由は単純で、「特別な才能がなくても、型に沿って考えるだけでアイデアが出やすくなる」という再現性の高さにあります。
7つの視点の意味
SCAMPERという名前は、次の7つの視点の頭文字を組み合わせたものです。ひとつずつ、どんな問いかけをする視点なのか見ていきましょう。
| 頭文字 | 視点 | 自分に問いかける質問の例 |
|---|---|---|
| S | 代用(Substitute) | 素材や方法、担当者を別のものに置き換えられないか? |
| C | 結合(Combine) | 2つ以上のアイデアや機能を組み合わせられないか? |
| A | 応用(Adapt) | 他の分野のやり方を、この課題にそのまま使えないか? |
| M | 変更(Modify) | 形やサイズ、意味合いを少し変えられないか? |
| P | 転用(Put to Another Use) | 今あるものを、まったく別の目的で使えないか? |
| E | 削除(Eliminate) | 思い切って何かを取り除けないか? |
| R | 再配置(Rearrange) | 順番や構成を入れ替えられないか? |
この表を見てもらうとわかる通り、それぞれの視点は難しい専門用語ではなく、日常の中でも使える素朴な問いかけです。大事なのは、この7つを機械的に順番にあてはめてみること。無理に全部から良いアイデアを出そうとせず、「これはピンとこないな」という項目は飛ばしてしまってもかまいません。7つのうち1つか2つでも、これまで気づかなかった切り口が見つかれば、それだけで十分価値があります。
有名企業に学ぶSCAMPER活用事例
言葉の説明だけではイメージが湧きにくいという人のために、日本でもなじみのあるグローバル企業を例に、SCAMPERの7つの視点がどのように商品開発やサービス改善に活かされてきたのかを紹介します。あくまで一般に知られている取り組みをSCAMPERの枠組みに当てはめた一例ですが、実際のビジネスの現場でこのフレームワークがどう機能するのか、イメージをつかむ手がかりになるはずです。
事例1:マクドナルドの取り組み
世界中に店舗を展開するマクドナルドは、時代ごとの消費者ニーズやライフスタイルの変化に合わせて、メニューやオペレーションを柔軟にアップデートし続けてきたブランドです。7つの視点それぞれに、具体的な取り組みを当てはめてみましょう。

- 代用:健康志向の高まりや、ベジタリアン・ヴィーガン層のニーズを受けて、一部の市場では動物性の原料を植物由来のプロテインに置き換えたメニューを展開しています。従来の顧客層に加えて、新しい層にもアプローチできる代用の好例です。
- 結合:「オールデイブレックファスト」は、朝食メニューという時間帯の制約と、通常メニューという2つの提供の仕組みを組み合わせたアイデアです。時間を気にせず好きなメニューを選べるようにすることで、来店のきっかけを増やしました。
- 応用:スマートフォンでの事前注文・決済という、他業種でも広がっていた仕組みを取り入れ、デジタル化していく消費行動に合わせてサービスの形そのものを変えました。
- 変更:子ども向けのセットメニューでは、量を見直したり、りんごスライスや牛乳といった副菜を加えたりすることで、栄養バランスへの配慮を強めています。同じ商品名でも、中身を少しずつ変更し続けているのがポイントです。
- 転用:もともと車に乗ったまま注文するためのドライブスルーレーンを、モバイル注文の受け取り場所としても活用するようになりました。新しい設備を作るのではなく、既存の設備に新しい役割を与えた転用の事例です。
- 削除:注文数が少ないメニューを整理することで、調理オペレーションをシンプルにし、人気メニューの提供スピードや品質に集中できる体制を作りました。
- 再配置:セルフオーダー用のタッチパネル端末を店内に設置し、注文の流れそのものを見直しました。お客さん自身がじっくりメニューを選べるようになり、レジの行列に対する体感的な待ち時間も変わってきています。
こうして並べてみると、マクドナルドは決して一度に大きな変革を行ったわけではなく、小さな見直しを積み重ねてきたことがわかります。SCAMPERの発想も、まさにこうした小さな一歩の積み重ねに向いています。
事例2:スターバックスの取り組み
コーヒーチェーンとして世界的な知名度を持つスターバックスも、店舗体験からドリンクの中身まで、あちこちにSCAMPER的な発想の跡が見られます。

- 代用:牛乳の代わりにアーモンドミルクやオーツミルクといった植物性ミルクを選べるようにし、乳製品を控えたい人やヴィーガンの顧客にも対応できる商品構成にしました。
- 結合:「スターバックス リワード」という会員プログラムと、モバイルオーダーの機能を組み合わせたことで、注文するたびにポイントが自然と貯まる仕組みができました。単に便利になっただけでなく、ポイントという仕掛けがリピート利用につながる設計になっている点が特徴です。
- 応用:リモートワークが広がる中で、事前注文機能をより使いやすく整えました。オフィスに向かう途中でスマホから注文しておき、店に着いたらすぐ受け取れるという流れは、働き方の変化に合わせた応用と言えます。
- 変更:季節限定・期間限定のドリンクを定期的に投入することで、「今の時期しか飲めない」という特別感を演出し、来店のきっかけを継続的に生み出しています。
- 転用:店舗の座席スペースを、コーヒーを飲む場所としてだけでなく、作業や打ち合わせをする場所としても使えるように工夫しました。無料Wi-Fiと座り心地の良い椅子を用意することで、カフェという空間の役割そのものを広げています。
- 削除:プラスチック製ストローの提供を取りやめ、より環境負荷の低い素材に切り替えました。何かで置き換えるのではなく、まず「なくす」という選択をした点が、削除の視点らしい判断です。
- 再配置:店内のレイアウトを見直し、モバイル注文専用の受け取りスペースを設けることで、注文から受け取りまでの流れをスムーズにし、店内の混雑も分散させました。
スターバックスの事例からは、商品そのものだけでなく、店舗という「空間」や「体験」もSCAMPERの対象になることがわかります。
事例3:アディダスの取り組み
スポーツブランドのアディダスは、環境配慮と機能性の両立を意識した商品開発を続けてきました。素材選びからサプライチェーンの構造まで、幅広いレベルでSCAMPERの視点が見られます。

- 代用:従来の化学繊維の代わりに、リサイクルポリエステルやサステナブルコットンといった素材を採用し、環境負荷を抑えた生産方法へとシフトしています。
- 結合:海洋環境保護団体「Parley for the Oceans」との協業により、海洋プラスチックごみを再生した素材を使ったシューズやウェアを開発しました。ファッション性と環境配慮という、一見結びつきにくい2つの要素を掛け合わせた事例です。
- 応用:普段使いとスポーツウェアの中間にあたる「アスレジャー」というトレンドの人気を受けて、カジュアル寄りのシューズラインナップを拡充しました。市場の変化を自社の商品開発にそのまま応用した形です。
- 変更:クッション性やサポート機能を高める技術を継続的に取り入れることで、同じカテゴリーのシューズでもデザインや性能をアップデートし続けています。
- 転用:製造過程で出る端材や廃棄物を、新しい商品の素材として再利用する取り組みを進めています。捨てるはずだったものに新しい役割を与える、転用らしい発想です。
- 削除:生産工程から有害な化学物質を段階的になくしていくことで、より安全で持続可能なものづくりを目指しています。
- 再配置:サプライチェーンを見直し、生産拠点をできるだけ消費地に近い場所に配置することで、輸送に伴うCO2排出量の削減にもつなげています。
アディダスの事例が示しているのは、SCAMPERが「商品そのもの」だけでなく、素材調達や生産拠点の配置といった、企業活動の裏側にあるプロセスにも応用できるということです。
SCAMPER法を効果的に使うためのコツ
SCAMPERは型があるぶん取り組みやすい反面、使い方次第で得られる成果に差が出るのも事実です。ここでは、実践する際に意識しておきたい5つのポイントを、具体的な進め方とあわせて紹介します。

1. 多様な視点を歓迎する
同じ経歴や立場の人だけで話し合うと、どうしても発想が似通ってしまいがちです。役職や部署、経験年数の異なるメンバーが安心して発言できる雰囲気を作ることで、思いがけない切り口が生まれやすくなります。ファシリテーター役の人は、誰かの意見を否定せず、まずは受け止める姿勢を意識するとよいでしょう。「それは違う」ではなく「なるほど、それをもう少し聞かせて」という受け答えを心がけるだけでも、場の空気は大きく変わります。
2. 研修やワークショップを取り入れる
SCAMPERは説明を聞くだけでは実感がわきにくいフレームワークです。実際に手を動かしながら練習できる研修やワークショップの機会を設けることで、チーム全体が「使い方」を体感として身につけられます。最初は身近なテーマ、たとえば「もっと使いやすい社内の稟議フローとは?」のような小さな題材で練習してみると、抵抗なく始められます。
3. 目的をはっきりさせる
「何のためにSCAMPERを使うのか」があいまいなまま始めると、話し合いが広がりすぎて収拾がつかなくなることがあります。「新商品のパッケージを見直したい」「問い合わせ対応の時間を短縮したい」など、取り組みたい課題やテーマを先に言語化しておくと、7つの質問がより的確なヒントとして機能します。
4. ブレインストーミングと組み合わせる
まずは自由にアイデアを出し合うブレインストーミングを行い、そのあとでSCAMPERの7つの視点を当てはめて磨き上げていく、という順番がおすすめです。自由な発散と、型に沿った深掘りをセットで行うことで、アイデアの量と質の両方を確保しやすくなります。
5. 繰り返し使う
一度SCAMPERをやって終わり、ではもったいない使い方です。同じテーマに対して時期を変えて何度も試してみると、そのたびに違う角度からの気づきが得られます。特に商品やサービスの改善は、一回で完成形にたどり着くものではないため、繰り返しの中で少しずつ磨き込んでいく姿勢が大切です。
よくある質問
Q. SCAMPERは何の頭文字ですか?
A. Substitute(代用)、Combine(結合)、Adapt(応用)、Modify(変更)、Put to Another Use(転用)、Eliminate(削除)、Rearrange(再配置)の頭文字を組み合わせた名前です。
Q. 個人でも使えますか?
A. はい、使えます。もともとは個人、特に子どもの発想力を育てるためのツールとして考案されたものなので、チームでの会議だけでなく、ブログの企画やSNS投稿のアイデア出し、日常の困りごとの解決など、一人で使う場面にもそのまま応用できます。
Q. 7つすべてを使わないといけませんか?
A. 必ずしもそうではありません。テーマによっては、7つのうちいくつかの視点がしっくりこないこともあります。無理にすべてを埋めようとせず、手応えのある視点を重点的に深掘りする使い方でも十分です。
Q. どれくらいの時間をかけて行うのが目安ですか?
A. 決まったルールはありませんが、初めて取り組む場合は1つのテーマにつき30分から1時間程度を目安にすると進めやすいでしょう。慣れてきたら、短時間でテンポよく回すやり方も可能です。
Boardmixを使ったSCAMPER実践
こうしたSCAMPERの話し合いを、より効率的に進めたいという方には、オンラインホワイトボードツール Boardmix がおすすめです。SCAMPER専用のテンプレートも用意されているため、思考のフレームワークとツールの機能をそのまま組み合わせて使うことができます。紙とペンで行うのももちろん悪くありませんが、チームで同時に書き込んだり、後から見返して整理したりする場面では、オンラインツールの方が圧倒的にスムーズです。

Boardmixには、SCAMPERの実践に役立つ機能がいくつも揃っています。
- 直感的に使えるインターフェース:文字を書いたり、図形を描いたり、要素を自由に動かしたりできるため、7つの視点をそれぞれ視覚的に整理しながら話し合いを進められます。
- リアルタイムの共同編集:チームメンバーが同時に一つのボード上で作業できるため、オンライン会議でもオフィスにいるときと変わらない感覚でブレインストーミングができます。
- AIによるアイデア提案:入力した内容をもとに、関連するアイデアや切り口をAIが提案してくれる機能もあります。行き詰まったときのちょっとしたヒントとして活用できます。
- 画像や動画などのマルチメディア対応:参考にしたい商品画像や動画をそのままボードに貼り付けられるため、言葉だけでは伝えにくいニュアンスも共有しやすくなります。
- ドラッグ&ドロップでの並び替え:SCAMPERの各項目を後から自由に入れ替えたり整理したりできるので、話し合いの流れを止めずに構成を調整できます。
- すぐに使えるテンプレート:ゼロから枠組みを作る手間がなく、テンプレートを開いてそのまま書き込んでいくだけで済みます。
- クラウド保存でどこからでもアクセス可能:作成したボードはクラウド上に保存されるため、オフィスでも自宅でも、続きから作業を再開できます。
まとめ
SCAMPER法は、代用・結合・応用・変更・転用・削除・再配置という7つの視点を順番に問いかけていくだけで、既存の商品やサービス、あるいは日々の業務にまで新しい気づきをもたらしてくれるシンプルな発想法です。マクドナルドやスターバックス、アディダスの事例からもわかるように、決して大きな設備投資や特別な才能が必要なわけではなく、「今あるものを少し違う角度から見てみる」という姿勢さえあれば、誰でも取り入れることができます。
まずは身近な課題やテーマを一つ決めて、7つの質問を自分自身、あるいはチームに投げかけてみてください。最初からすべての視点でうまくいく必要はなく、1つでもピンとくる切り口が見つかれば十分な収穫です。Boardmix のようなオンラインホワイトボードとテンプレートを併用すれば、話し合いの記録も残しやすく、次のアイデア出しにもつなげやすくなるはずです。