現状のカスタマージャーニーマップは、顧客が今どのような体験をしているかを表します。将来像のカスタマージャーニーマップは、これから提供したい体験を表します。顧客、目標、旅程の始点と終点をそろえることで、無関係な二つの話ではなく、同じ体験をどう変えるのかを比較できます。

カスタマージャーニーマップ作成ツールを使い、二つのマップを横に並べてみましょう。まず顧客が実際にしていることを整理し、提案する変更は別のマップに置きます。この記事では、架空のネットショッピングの返品を例に、それぞれのマップに何を書くか、両者の違いをどう検証可能な設計につなげるかを説明します。

荷物の返品における二つの旅程。接点が分断された現状と、接点をつなぐ改善案
顧客の目標は変えずに、そこへ至る体験を変えます。

現状マップと将来像マップは何が違う?

違いは、情報の細かさや見た目ではありません。記載した情報が、確認できた現状なのか、これから実現したい提案なのかです。現状マップでは、観察した行動にその根拠を添えます。将来像マップでは、提案する行動に、それを可能にする条件を添えます。

  • 現状についての問い:顧客は今、どのように返品を申し込み、どの段階で不安を感じているか。
  • 将来像についての問い:サポートへの問い合わせを繰り返さなくても、顧客が何を理解し、何をできるようにしたいか。
  • 共通の対象範囲:サイズの合わないジャケットを返品すると決めた時点から、返金の結果を理解する時点まで。

例えば、「返品ラベルを求めてサポートにメールする」は、調査で確認できていれば現状の行動です。一方、「注文ページから返品ラベルを取得する」は、その仕組みが提供され、顧客が使えるようになるまでは提案です。後者を現状マップに移してしまうと、実現したい姿を現在の事実として記載することになります。

ジャーニーマップの中心にあるのは、ある目的を達成しようとする人です。NN/gのジャーニーマッピングガイドでは、対象となる人、シナリオ、段階、行動、思考、感情を区別しています。この土台を二つのマップでそろえ、比較を通じて体験のどこを変えたいのかを明らかにしましょう。

どちらのマップから作ればよい?

既存サービスに問題があり、原因がはっきりしない場合は、現状から整理します。サポートでのやり取り、顧客インタビュー、操作の観察、関連する利用記録を使うと、実際の体験とチームの推測を分けられます。「返金が遅い」という不満も、実際には返送した荷物が届いたか分からないことへの不満かもしれません。

リニューアルや、まだ存在しないサービスを検討する場合は、将来像を描きます。運用の細部が決まる前でも、どのような体験を提供するかを検討できます。提案であることを示し、重要な未確定事項を書き添えましょう。まったく新しいサービスなら、存在しない現状の旅程を作ってはいけません。顧客が今、別の方法で同じ問題をどう解決しているかと、提案する旅程を比較できます。

何を変えるかを決めるときは、両方を使います。現状版を保存し、同じ段階の見出しで将来像を作ります。新しい設計で段階を削除したり統合したりする場合は、その変更を明示してください。実際の体験が変わるまでは、元の現状マップを書き換えないようにします。

具体例:ネットで購入した商品を返品する

購入したジャケットのサイズが合わなかった顧客を想定します。以下は設計を考えるための説明例であり、実在する販売店の調査結果ではありません。顧客の目標は、正しく返品し、返金がどうなるのかを理解することです。この例は、返品ポリシー、返品の可否、返金期限を定めるものではありません。

ジャケット返品の四つの段階で、現状の体験と提案する将来の体験を比較した例
同じ四つの場面を比較します。将来像で変えるのは顧客に届く情報であり、顧客の目標ではありません。

1. 返品を申し込む

現状:顧客は一般の問い合わせ先を見つけ、注文番号を送ってジャケットを返品できるか尋ねます。どの情報が必要なのか、適切な担当者に届いたのかが分かりません。

将来像:注文ページで、適用される返品条件の確認方法と申請方法を案内します。顧客には受付番号と次の手順が届きます。これが役立つためには、案内が販売店の実際のポリシーと一致し、申請が返品担当のチームに届く必要があります。

確かめること:利用者に注文ページを見せ、返品手続きを始めてもらいます。手続きを進めてよいか、何を入力するか、送信後に何が起こるかを理解できるでしょうか。「簡単返品」というボタンだけでは、これらの疑問には答えられません。

2. 梱包して発送する

現状:返品手順と返品ラベルが別々のメッセージで届きます。顧客は受信箱を探し、どの書類を荷物の中に入れ、どれを外側に貼るのかを確認します。

将来像:一つの案内画面に、正しいラベル、梱包手順、利用できる発送方法をまとめます。印刷が必要なら、荷物を持ち込む前に分かるようにします。印刷不要の発送方法に対応していない場合、マップでそれを約束してはいけません。

確かめること:提案した案内を使って、どのように梱包し、荷物を引き渡すかを顧客に説明してもらいます。単に「分かりやすいですか」と聞くのではなく、ラベルや送付先について迷う箇所を観察します。

3. 返品の進み具合を理解する

現状:配送会社では「配達完了」と表示されていますが、ショップの注文ページは変わっていません。顧客は、配達されたことが返品商品の確認完了を意味するのか判断できず、サポートに連絡します。

将来像:ステータス画面で、荷物の到着と商品の確認を区別し、次に何が行われるかを示します。この設計には、各ステータスを信頼できる情報で更新できる仕組みが必要です。実際には誰も更新できない状況を、リアルタイムで確認できるように描かないでください。

確かめること:「荷物を受領しました。商品を確認するまでお待ちください」といった表示を見せます。何が済み、何がまだ済んでいないか、どのようなときに問い合わせるべきかを顧客が説明できるでしょうか。確認するのは情報の理解であり、返品業務がすでに速くなったということではありません。

4. 返金の結果を理解する

現状:一律の「完了」メッセージだけでは、返金が承認されたのか、返金処理が開始されたのか、すでに口座などに反映されたのかが分かりません。

将来像:販売店が完了した処理と決済側の処理を区別し、実際の次の段階を説明します。想定した進展がない場合に使える問い合わせ先も案内します。時期について書く場合は、サービスの実際のポリシーと決済処理に基づく必要があり、ジャーニーマップを描く作業の中で決めるものではありません。

確かめること:顧客に、次にどのような変化があると思うか、そうならなかったら何をするかを尋ねます。その説明から、メッセージが分かりやすい見通しを示せているかを判断できます。

Boardmixで二つのマップを作る

編集できるカスタマージャーニーマップのテンプレート、または空のボードから始めます。「現状の体験」「提案する体験」と明示した二つのエリアを作り、四つの段階の見出しをそろえて配置します。このマップは検討のための資料です。ショップの注文システムと接続したり、返品状況を通知したりするものではありません。

  1. 共通のシナリオを二つのマップの上に書きます。対象の顧客、サイズの合わないジャケット、返品の目標、始点と終点を含めます。調べたい問いに影響しない限り、請求に関するトラブルや交換はこの例の範囲から外します。
  2. 根拠をもとに現状を記入します。顧客の行動、接点、疑問、感情を追加し、観察した内容のそばに情報源を記します。感情が本人の発言ではなく推測である場合は、発言を作らず、解釈であると示します。
  3. 提案する変更は二つ目のマップに置きます。各段階で顧客の行動や理解がどう変わるかを書きます。「うれしくなる」は設計変更ではありません。「荷物の到着と商品の確認を区別できる」なら評価できます。
  4. 関連する場面をつなぎます。現状の分かりにくさと、提案する改善を結び付けます。ステータス情報の連携、ポリシーの決定、サポートの手順が必要な変更なら、その前提条件を提案した接点のそばに書きます。
  5. 関係者と二つのマップを見直します。調査、デザイン、サポート、運用の担当者は、返品の異なる部分を見ていることがあります。現状を上書きせず、該当する段階のそばにコメントを付けて認識の違いを整理します。

広く共有するマップには顧客の個人情報を載せず、匿名化したメモと、確認する人がアクセスできる情報源を使います。提案が変わったら、その名称や説明を更新してください。改善がすでに実現しているかのように、現状マップを書き換えないことが大切です。

改善を決めつけず、比較を役立てる

将来像のマップは設計上の仮説であり、成果ではありません。この比較例からは、案内とステータス表示を分かりやすくすることで、不安を減らせる可能性が考えられます。ただし、問い合わせ件数の減少、返金の迅速化、満足度の向上が確認できたわけではありません。それらは、変更を試した後、または提供した後に別途評価する結果です。

提案する接点ごとに、変更内容を短くまとめます。荷物の受領段階なら、例えば「現状では、顧客は配送会社の配達完了が返品商品の確認完了を意味するのか判断できない。提案では、ステータス画面で受領と商品の確認を分ける。顧客がその違いを説明できるかを試す」と書けます。顧客の問題、設計の変更、調べられる問いを一つにつなぐ説明です。

実際に異なる経路は、違いが分かるように残しましょう。破損品、注文番号が分からない場合、通常のサイズ違いによる返品では、対応が異なる可能性があります。ある例外への対応が検討の中心になったら、全員を一つの整った線に押し込めず、別の旅程を作ります。

テスト後は提案したマップを修正し、変更を提供して顧客の行動を観察した後で、現状マップを実際の体験に合わせて更新します。以前の二つのマップは、何を変えたかの記録として残しましょう。自分たちの比較を作るには、Boardmixのワークスペースを開き、一つの顧客目標と、明確に分けた二つのマップから始めてください。